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  • 「43歳から始める女一人、アメリカ留学」 第2話(ライクス)- 2025.03.18(火) 09:00

「43歳から始める女一人、アメリカ留学」 第2話

ライクス

2025.03.18(火) 09:00

「43歳から始める女一人、アメリカ留学」
第二話・・・待っていたのは、とんでもない家だった

 「携帯電話を車の中に置き忘れちゃって、ごめんねぇ」

 公衆電話をかけてもつながらず、半ば呆然としていた私の前に、さわやかにあらわれたのが、ルーミーこと我がルームメイトだった。

 写真で見たままの容貌だ。よかった。

 インターネットの結婚紹介サイトでは、よく「写真詐欺」があるという。実物とはかけ離れた、いい写真を使う女性が、とても多いのだそうだ。かつて取材した、婚活サービス会社の担当者が、言っていた。

「男性からのクレームで、一番多いのが、『現れた人が写真と全然違った』というものなんです」

 だから彼女の写真がとても昔のもので、実はものすごい巨漢だとか、写真よりずっと老けていたりして、すれ違っても分からなかったらどうしよう、と密かに心配だった。

 一緒に暮らす分には、巨漢でも老けていてもかまわない。でもいずれバレる相手に対してでさえ、そうでないよう、過度に自分を加工する精神の持ち主には、警戒が必要だと思う。

 カラカラと笑う彼女に促され、赤いフォードの小型車に乗り込んだ。走るとすぐさま、私はシアトルの町並みの美しさに、息をのんだ。
左手には青い海、ヨットにかもめ、右手には緑あふれる丘の上の住宅街。

 あのイチローが活躍する、セーフコフィールドもこの目にした。

 ようやく来たんだ。

 まだ何もしていないのに、ルームメイトと空港で落ち合って、車に乗せてもらっただけなのに。

 妙な感慨が、湧き上がった。

 そもそも私が、アメリカにいつか留学したい、と最初に思ったのは、高校生の時だった。高校に、学年で1人、1年間の交換留学に行けるというプログラムの案内が来た。

 面白そう、行ってみたい。そう思ったけれど、音大受験を控えていた私は、「1年もピアノが弾けないんじゃ、無理だ」とあえなく諦めた。申し込みさえしなかった。その消極性を、しばらく後悔した。

 20代の末にも、一度、留学したいと思った時期があった。今度は、奨学金制度に応募した。けれどもあえなく書類審査で敗退。思えば、会社での仕事に行き詰まり、現状から逃げ出したい、ただそれだけの留学志願だった。思いつきのような課題テーマを英語で書いて、提出した。「残念ですが」の通知に、その甘さを見透かされた気がした。

 だからしいていえば、27年越しの悲願達成、といえる。今回は、20代の時と同じ奨学金制度に応募した。合格通知を受け取った時には、ようやく、「行ってよろしい」と神様にハンコをもらったような気がした。
 
 30分ほどドライブした所で、家に着いた。小高い坂の上の、芝生におおわれたさらに小高い丘に立つ、煉瓦の煙突のそびえるブルーの家。

 グーグルマップで何度も何度も検索して眺めた(プライバシー問題は懸念される所だが、いざ使うと便利なものである)、あのかわいい家だ。本物だ。

 ところが、現実というものは、いつも思いも寄らないハプニングで人生を彩ってくれるもの。

 ドアを開けると、待ちかまえていたのは、驚愕の光景だった。

 とてつもなく散らかった、リビングルームであった。

次回、またね

フリーライター
長田美穂さん(ながた みほ、1967年 - 2015年10月19日 )
1967年奈良県生まれ。東京外国語大学中国語学科を卒業後、新聞記者を経て99年よりフリーに。
『ヒット力』(日経BP社、2002年)のちに文庫 『売れる理由』(小学館文庫、2004年)
『問題少女』(PHP研究所、2006年)
『ガサコ伝説 ――「百恵の時代」の仕掛人』(新潮社、2010年)共著[編集]
『アグネス・ラムのいた時代』(長友健二との共著、中央公論新社、2007年)翻訳[編集]
ケリー・ターナー『がんが自然に治る生き方』(プレジデント社、2014年)脚注[編集]



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